口は全ての臓器の入り口です。
食べ物や空気だけでなく、病気を引き起こすウイルスや細菌が入ってくる場所でもあります。適切な口腔ケアを行うことは、口の中のみならず全身の健康を保つために大切なことです。
とりわけ、体力や抵抗力が弱っている時の、口の中の雑菌は大敵です。健やかな生活を送るために、口腔内を清潔にして感染症を予防し、口を動かす機能を維持することが重要になります。
今回は、口腔ケアの効果や方法について詳しくご紹介していきます。
1. 口腔ケアとは?
口腔ケアとは、口の中の疾病を予防し健康を維持することによって、生活の質を向上させようというものです。口腔ケアは口の中の健康だけでなく、身体全体の健康を守るためにもとても大切です。
口腔ケアが注目を集めている背景には、急激な高齢化を迎える日本の現状があります。高齢者が自分の歯を使って食事や会話を楽しみながら生活を送るために、しっかりとした口腔ケアを行うことが求められているのです。
口腔ケアは大きく分けると、口腔内の清掃を目的とした「器質的口腔ケア」と口腔機能の訓練を目的とした「機能的口腔ケア」の2つがあります。この2つをうまく組み合わせることによって、口腔ケアの効果をより高めることができます。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアとは、口の中を掃除することで清潔に保つケアです。歯ブラシなどを使って歯や義歯の汚れを取り除き、口腔内の細菌を減らします。
歯だけでなく、舌の表面にも汚れが付着します。汚れが蓄積し白い舌苔が厚くなると、口臭の原因になるので注意が必要です。高齢者は唾液の量が減り、舌の動きも鈍くなることで、舌の汚れが取れにくくなる傾向があります。
舌用のブラシやマウスウォッシュなどを用いて、舌や口腔内の粘膜も清潔にします。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアとは、噛んだり飲みこんだりのほか、笑ったり話をするなどの機能の回復や維持を目指すケアです。口の周りの筋肉を動かすことで、あごや舌がよく動くようになり、唾液の分泌量も増えます。
高齢になると「食べ物をうまく飲み込めない」「口が渇く」などの悩みが増えがちです。顔や舌の体操、唾液腺のマッサージを行うことで、筋肉や脳が刺激され、失われた口腔機能が回復することもあります。
2. 口腔ケアの効果
年齢を重ねるにつれ、口腔内にはさまざまな問題が発生します。
特に、抵抗力の弱い高齢者にとって、口の中のトラブルは一歩間違えると命とりになりかねません。口腔ケアは、これらのリスク回避する効果があります。
口腔ケアの3つの効果をご紹介します。
・効果1)誤嚥性(ごえんせい)肺炎の予防
・効果2)認知症の予防
・効果3)感染症や発熱の予防
効果1)誤嚥性(ごえんせい)肺炎の予防
誤嚥性肺炎とは、口の中の飲食物や唾液が誤って気道に入ってしまい、肺に口腔内の細菌が入ることで引き起こすものです。誤嚥性肺炎は、嚥下機能が低下した高齢者が起こしやすく、死因につながる怖い病気です。
口腔ケアで口腔内の細菌を減らすことで、そのリスクを低下させることが可能です。
効果2)認知症の予防
認知症の予防効果も口腔ケアにはあることが分かっています。
歯周病などで歯を失い、しっかり噛むことができなくなると、脳が萎縮して認知症になるリスクが高まるとされています。
「歯が20本以上残っている65歳以上の方」に比べて、「歯がほとんどなく入れ歯も使っていない65歳以上の方」の方が認知症になるリスクが1.9倍も高くなることが、愛知県で行われた調査によって明らかになっています。
自分の歯を残すことは、認知症予防にもつながるのです。
効果3)感染症や発熱の予防
感染症や発熱のリスクを下げる効果も口腔ケアの役目の一つです。
口腔内には、感染症や食中毒、肺炎などを引き起こす細菌が存在しています。
口の中が不衛生になると、そういった細菌が繁殖し、全身疾患を引き起こすことがあります。口腔ケアによって口の中を清潔に保つことで、細菌の繁殖を抑え、感染症や発熱を未然に防げる可能性が高まります。
3. 口腔ケアの方法
口腔ケアの方法には、自宅で行うセルフケアと歯科医師などが行うケアの2つがあります。この2つを組み合わせることで、よりよい口内環境を保てます。
歯科医師からは、実際に口腔内を診てもらうことで口腔ケアを行ってもらえるため、今回は自宅でできる4つのセルフケア方法をご紹介します。
方法1)うがい
方法2)歯みがき
方法3)舌みがき
方法4)口腔清拭
方法1)うがい
うがいには大きく分けて、上を向いて喉の奥を洗う「ガラガラうがい」と口を閉じて頬を動かして行う「ブクブクうがい」があります。
ガラガラうがいは、喉の奥に付着したほこりや細菌を洗い流すのに効果的です。口に水を含んで顔を天井に向けて「ガラガラ」と大きな音を立てて15秒ほどゆすぎ、もう一度繰り返します。
ブクブクうがいは、口の中に残った食べかすを取り除くことを目的とします。口に水を含み、正面を向いたまま口の中全体に水が行き渡るように「ブクブク」とうがいして吐き出します。3〜4回ほど繰り返しましょう。
方法2)歯みがき
歯みがきは口腔ケアの中でも最も重要で基本的なものです。
ブラシを使って、むし歯や歯周病の原因となる歯こうを取り除きます。むし歯を防ぐためには食後すぐに行うようにしましょう。
特に、寝る前は唾液が少なくなって細菌が繁殖しやすくなるので、念入りに磨きましょう。
歯を磨く時には力を入れすぎると歯や歯茎を傷つけてしまう恐れがあります。優しくブラッシングするよう心がけてください。
手順は以下の通りです。
1.歯ブラシの毛先を歯に対して90度になるようあてます。
2.歯ブラシを小刻みに動かしながら1本ずつ丁寧にブラッシングします。
3.歯と歯茎の境目に歯ブラシを45度くらいの角度であて、左右に細かく動かします。(歯周ポケットの汚れをかき出します)
また、上記に加えデンタルフロスを使って、歯みがきでは落とせない歯と歯の間の歯こうや食べ物のカスを摂り除くとさらに効果的です。
方法3)舌みがき
舌にも汚れがたくさんついているので、舌みがきできれいにすることが大切です。
舌ブラシにクリーナーをつけ、舌の奥から優しく手前に引いていきます。この時、舌の奥に入れすぎたり力を入れすぎたりしないようにしましょう。
舌ブラシに汚れがつかなくなるのを目安にするようにし、1回で舌の汚れをきれいに取り除き過ぎないようにしましょう。数回繰り返すことで、舌をきれいにするようにしましょう。
また、舌みがきは歯みがきとは違い、1日1回に抑えるようにしてください。
方法4)口腔清拭
口腔清拭とは、歯がなく、うがいもできない高齢者などに、口の中を拭く方法です。
指などにガーゼやウエットティッシュを巻き、口腔内の汚れをきれいに拭き取りましょう。口の中が乾燥している場合には、専用の保湿剤を使用すると効果的です。
4. まとめ
口腔ケアは口の中だけでなく、体全体の健康を保つために必要なケアです。正しい口腔ケアを行うことによって、さまざまな病気のリスクを防ぐ効果が期待できます。また、口腔機能の回復や維持・向上にも有効です。
口腔ケアは、自分で行うセルフケアだけでなく、自分だけではケアしきれなかった部分を診てくれる歯科クリニックなどでも行うのがポイントです。
いつまでも食事や会話を楽しみ、快適な生活が送れるよう、正しい口腔ケアを行いましょう。
監修:森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。