人の全身は細菌の集合体「フローラ(菌叢)」に守られている

真織 日本人女性は便秘に悩む人が多いといわれますが、実は私もその1人です。昨年から腸について勉強を始め、腸の重要性を実感しました。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、腸が不調になると全身に悪影響を及ぼすそうですね。
坂本 真織さんは、腸の健康を守っている菌のことや「腸内フローラ」という言葉は知っていますか?
真織 「腸内フローラ」は聞いたことがありますが、詳しいことは知りません。ぜひ、教えてください!
坂本 人間の体には約2kgもの細菌が存在していて、人の体は細菌で守られているんです。腸内に存在する菌叢(きんそう:菌の集合体)を「腸内フローラ」、肌の表面の菌叢を「肌フローラ」、そして口や鼻腔の菌叢を「口内フローラ」と呼んでいます。腸内には100兆個を超える菌が存在するんですよ。
生きた善玉菌を使った健康法「バクテリアセラピー」
真織 「善玉菌」とか「悪玉菌」という言葉もよく耳にしますが、必ずしも体にいい菌ばかりではないんですよね。
坂本 そのとおりです。体内の菌は、人の健康に有益な働きをする善玉菌、病気や不調などの原因になる悪玉菌、肺炎菌やブドウ球菌のような日和見菌の3つに分類されます。
これらがうまくバランスをとって「共存共栄」しながら全身を守っていますが、免疫が弱まると日和見菌が増えて悪玉化し、健康をむしばむ原因になります。
例えば、「口内フローラ」の理想的な細菌バランスは、善玉菌10に対して悪玉菌1。口内の健康を守るためには、悪玉菌の10倍もの善玉菌が必要といわれています。
そこで、悪玉菌を抑えて善玉菌を増やすために、乳酸菌やビフィズス菌などの「プロバイオティクス(健康に有益な生きた菌)」を摂取する手法が注目されています。
このプロバイオティクスを習慣的に十分な量を摂取して、体内の菌バランスを整えて健康を維持する健康法のことを、「バクテリアセラピー」といいます。北欧で生まれ、100以上の国で活用されている、今注目の予防医療技術の考え方なんですよ。
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全身の健康のためには口内フローラをいい状態に保つことが大切
坂本 私は歯科医の立場で菌に着目していますが、腸と同じ、もしくはそれ以上に全身の健康に影響するのが「口内フローラ」です。
口、胃、腸などの体の器官は医学的には「消化器」と呼ばれ、直結しています。口腔内のフローラが乱れていると、腸内フローラも乱れていることが多いんです。
「病は口からやってくる」なんてこともいわれているように、全身の入口である口の中の「菌質」は、全身の菌質を大きく左右するんですね。
真織 確かに、体に入るものは基本的に口から入るので、そこに悪玉菌が繁殖していたら全身に回ってしまいますね。口臭予防や美しい笑顔のためだけでなく、健康のためには口の中のフローラをいい状態に保つことが大切だといえますね。
お口のお手入れには“三種の神器”を
坂本 オーラルケアは、歯科医院でのお手入れと、家で行うセルフケアの2本立てが基本です。私は3~4カ月に一度、スタッフに歯の掃除をしてもらい、毎日の歯磨きには、歯ブラシ、歯間ブラシ、フロス(糸)と何種類かの歯磨き粉を使っています。
真織 私も、夜は湯船の中で10分くらいかけて歯を磨きます。歯ブラシを3本使い、歯間ブラシもサイズ別に3~4種類、もちろんフロスも使って、夜は舌まで磨いてます。歯の定期健診も2カ月に1回、行っています。
坂本 「歯科医院での手入れ」「セルフケア」に加えて、今私が注目しているのは、「優秀なプロバイオティクスの摂取」です。
この3つを、私は“お口のお手入れの三種の神器”と呼んでいます。優秀なプロバイオティクスは口腔内や腸の悪玉菌を抑え、菌のバランスを整えてくれます。その継続が全身の健康維持につながるんですよ。
対談者プロフィール
真織由季(まおり・ゆき)
パフォーマー/魅せ方トータルプロデューサー
1967年神奈川県生まれ。元宝塚歌劇団男役スター。代表作に『ベルサイユのバラ』のオスカルなど。退団後はミュージカルやテレビドラマに出演。現在は、ストレスケアカウンセラーとして授業やカウンセリングの実施、頑張る女性を応援する「魅せる」を学ぶトータルレッスンの他、コンサートやライブ活動にも力を入れている。坂本紗有見(さかもと・さゆみ)
銀座並木通り さゆみ矯正歯科デンタルクリニック81 院長
1961年北海道生まれ。東京歯科大学卒業。3児の母ならではの視点で丁寧なケアや治療にあたっている。日本美口協会代表理事、日本アンチエイジング歯科学会常任理事。日本成人矯正歯科学会常務理事、日本矯正歯科学会認定医、日本歯周病学会会員、日本歯科審美学会会員ほか。取材・文/加納美紀 写真/鈴木愛子
日経ARIA 2020年5月1日掲載より転載