お口から、 カラダのこと

Menu

  • #免疫
  • #健康

歯科衛生士に学ぶ!乳幼児期から始めるお口の健康習慣

3歳までの口腔内環境は、残り一生分の健康を左右するといわれているほど重要な時期です。
私は、小児に特化した歯科医院で歯科衛生士として働く中で、0歳から高校生ぐらいまでの患者さん、子育て中の親御さんと日々かかわってきました。その経験を踏まえ、子どもたちのお口の健康習慣や、自立心を育むためには、ご家庭でどのようなことを心掛けたらいいのか、また、仕上げ磨きや歯磨き練習のポイントについて、年齢別に紹介したいと思います。

1. 日本のむし歯の現状と口腔ケアの重要性

日本人のむし歯は減っているのか、また、お口の健康を保つために何が重要なのかについて紹介します。
 

日本人のむし歯の現状

国と日本医師会では、「80歳になっても20本以上、自分の歯を保とう」という「8020運動」を推進しています。どの年齢層でも達成者の割合は年々増えていますが、その一方で、年齢が上がるにつれてむし歯を持つ人の割合は増えているという現状が今の日本にはあります。
 
日本人は1日3回歯磨きをしている人が多いのに、なぜむし歯の数に減少傾向が見られないのでしょうか。理由は、正しい歯磨きの方法を知らない、あるいは教えてもらっていないからだといえます。
 

お口の健康を保ち、一生自分の歯で生活するための3つの柱

口腔内を健康に導くために重要な3本の柱があります。
1つ目は「プロケア」ですね。これは歯科医院での定期健診やメインテナンス、歯磨き指導などを指します。
2つ目はご家庭で行う歯磨きなどの「セルフケア」で、これが最も重要です。
3つ目は、乳酸菌などの優れた善玉菌を摂取して善玉菌と悪玉菌の体内バランスを整えるという健康法「バクテリアセラピー」です。
お口の健康を保つためには、この3つの柱の強化が重要となってきます。
 
プロケアやセルフケアなどを通じて口腔ケアを行うメリットとしては、むし歯や歯周病を防ぐだけではなく、全身の健康を守ることにもつながる点が挙げられます。お口は全ての食べ物が入ってくる健康の入り口です。お口の健康を守ることは、将来的にも全身の健康を守ることにもつながるといえるでしょう。
 
では、お口の健康を守り、むし歯を予防するのに不可欠なことは何でしょうか。重要なのは定期的な学びと継続的な練習で、乳幼児期から仕上げ磨きの習慣を付け、3歳ごろからは自分磨きの練習を開始して、自分の歯は自分で守る習慣付けを行うことです。

2. 歯磨きを習慣付けるためにはお子さんの発達を知りましょう

子どもは成長段階でできることが違うため、成長に合わせた練習や教育が必要となってきます。親御さんは正しいサポートができるように、まずはお子さんの言葉の発達や情緒、運動機能の発育をよく理解することが大切です。
 
歯磨き習慣を付けるためには、情緒の発達を知ることが重要です。
赤ちゃんは首がすわる3カ月ぐらいになると快、不快の情緒が出てきます。2~3歳ぐらいになると自我の芽生えや、嫌なことも頑張ろうという理性が出てきて、言葉もだいぶ理解できるようになります。とにかく初めての歯ブラシ体験が心地よくなるか、不快になるかはその後の習慣付けにすごく重要になってくるので、親御さんが発達を理解して心地よい体験になるよう配慮できるといいですね。
 
首が据わって、ハイハイができて、お座りができて、伝い歩きをして、1人で歩けるようになります。このように、運動機能もだんだん発達してきます。同じように歯ブラシも、3歳になったからといって、小学生になったからといって、いきなりうまくなるものではありません。段階を踏んで練習をしていく必要があります。
 
歯ブラシ選びもとても重要です。初めての歯ブラシは子どもが不快に感じないものを選ぶ必要があり、以下の特長を備えた歯ブラシの使用をおすすめします。
 
・歯ブラシの毛が柔らかく弾性のあるもの
・毛の根元から毛先までの太さが均等で毛先が丸いもの
・植毛数が高密度のもの
・赤ちゃんにも持ちやすい形状のもの
 
歯肉を傷つけにくく、痛みの少ない快適なブラッシングが可能な歯ブラシを使って、くるくると円を描くように回して、歯と歯茎の間のプラークを取る磨き方が基本となります。

3. 年齢別!歯磨きの練習を詳しく解説

小学校高学年までを4つに分けて、各年代で重要なこと、具体的な練習方法、練習の際の注意点などをそれぞれ詳しく紹介します。
 

 

乳児(仕上げ磨き開始時期)

生後3~4カ月になったらお口に歯磨きを入れる前の準備をしましょう。乳児期は、お口の周りを触られるのが嫌なお子さんも多く、歯が生えてきてから歯ブラシを口に入れると当たり前のように泣かれます。ですから、歯が生える前の時期に、歯磨きに慣れていく段階として、敏感なところの緊張をほぐすための「脱感作」を行います。
 
おすすめの道具は、キシリトールなどが配合された市販品の歯磨きナップです。湿らせたガーゼを親御さんの指に巻きつけて行ってもいいですね。そのとき、お子さんがガーゼを飲み込まないように指にしっかり巻き付けるようにしてください。
 
〈脱感作の手順〉
1.親御さんは爪を短く切り、手洗い、アルコール消毒をしっかり行う
2.「お口に触るよ」「怖くないよ」と声掛けをしながら、実際に口の周りや歯茎を刺激して、親御さんの手は安全だということをお子さんに確かめさせる
 
歯が生えてきたら、仕上げ磨きを開始します。この時期は、お子さんにとって歯磨きは嫌なものではなく気持ちいいものだと認識をさせることが重要なので、以下のコツを参考にやってみてください。
 
〈子どもが嫌がらない仕上げ磨きのコツ〉
1.驚かせない
いきなり歯ブラシを入れず、まず歯ブラシや親御さんの指で唇や舌の先を刺激して、「今から歯磨きが始まるよ」というサインを送ります。
 
2.息苦しくしない
親御さんが仕上げ磨きに夢中になってしまうと、お子さんが息をしているかどうか確認しないで進めてしまうことがあります。防止策として、「じゃあ5つ数える間、磨くよ」と数をいいながら磨いたり、歯ブラシをお口から出すごとに「息してみようか」と声掛けをしたりして、息継ぎをさせてください。
 
3.痛くしない
上唇の裏には上唇小帯というひも状のものが歯の近くにくっついているので、そこを硬い歯ブラシで磨いてしまうと、歯磨き嫌いのお子さんが多くなってしまいます。上唇小帯を指で保護した状態で磨くか、上唇小帯を磨いても痛くない歯ブラシを選ぶのがおすすめです。
 
4.親御さんが笑顔を見せる
仕上げ磨きのときに親御さんの気合が入り過ぎていると、顔つきが怖く見える場合があります。できるだけ、にこにこした柔らかいお顔で接していただくと、お子さんたちも安心するはずです。
 
5.眠くならない時間帯に行う
眠くなるとどうしてもお子さんは何をやっても嫌がるので、眠くならない時間帯を見つけて行うもの重要なポイントです。
 
乳幼児期は特に、歯ブラシによるケガにも注意が必要です。6歳以下の歯磨きに関する事故のうち3歳以下の事故が特に多く、中には喉に刺さって集中治療室に入るような重篤な事故も発生しています。この時期の歯磨きは、ケガを防ぐためにも親御さんのお膝の上で行うか、ふらふら歩き回ったり、椅子の上に乗ってやったりしないようによく見守って行うようにしてください。

 

3歳以降(自分で歯磨きができるとき)

自分で歯磨きができるように練習をスタートする時期です。縄跳びや逆上がりの練習と同じで最初から上手にはできません。繰り返し練習して上達できるようにしましょう。
 
この時期は模倣といって人のまねをするのが上手なので、歯科衛生士が指導するときは大きな歯の模型と歯ブラシを使いながら、10回ずつ磨く練習をしてもらいます。噛む面を4カ所、表側を3カ所、あと歯には裏もあると教えながら、裏側も磨く練習をします。
できればかかりつけの歯科医院などで練習をして、おうちでもやって、段階を踏んで練習を続けられるといいですね。
 
歯磨きの練習をするときは危険がないように、椅子に座って、足がしっかり付く状態で行ってください。万が一後ろに倒れても大丈夫なように、必ず背もたれがある椅子か、壁を背に座るようにしましょう。

 

小学校の低学年(6歳臼歯が生える時期)

この時期は、新しく生えてくる6歳臼歯というすごく大事な歯があることを親御さんもお子さんも理解することが大切です。
 
歯磨きについては完璧さを求め過ぎず、お子さん自身が口の中の状況や変化を理解して、その上で自ら行動できるようなサポートを心掛けてください。
具体的な練習方法としては、鏡を見て行うのがおすすめです。どこの歯を磨いているのかな、6歳臼歯がどこに生えているのかなどを確認しながら磨く練習をします。
 
なお、本人磨きも重要ですが、まだまだ全て手を離してしまうのは心配があるので、仕上げ磨きは継続してください。夜だけで十分なので、その際に、歯がぐらぐらしていないか、大人の歯が生えてきたかなどチェックしながら行えるといいでしょう。

 

小学校の中学年以降(歯磨きを自立していく時期)

この時期は歯磨きの自立期になります。前歯4本、一番奥の6歳臼歯が大人の歯です。まだ永久歯と乳歯が混ざっている状態です。
 
自分磨きで良好な状態を保てるように練習することが重要なので、歯垢染色液という液で染め出しを行って、自分の口腔内の状況を正しく把握するのがおすすめです。歯を磨く行為が大事なのではなくて、この時期はきちんと磨けている状態を目指す必要があります。
 
市販の染め出し液を用いると、ブラッシング指導がすごく効果的です。赤くなった状態から親御さんと一緒に練習して、汚れを自分でもきれいにできると知ると、自信が付いて、モチベーションアップにもつながります。
 

4. 歯磨き指導の実際と成長とともに考慮すべきポイント

乳幼児期は、親御さんがご家庭での歯磨きにかかわって、仕上げ磨きと自分磨きの両方を行う時期です。ここまで年代別に練習方法を紹介してきましたが、改めて注意点を確認しましょう。
 
3歳以降の自分磨きは何よりも事故を防ぐための配慮が重要です。基本は椅子に座って行い、さらに親御さんが見守るようにしてください。
小学校の低学年は6歳臼歯をむし歯から守るための練習が必要になってきます。自分磨きだけではまだまだ不十分なので、仕上げ磨きも行ってください。
9歳前後は歯磨きの自立期なので、自分磨きを中心に指導してください。仕上げ磨きがなくても自分自身で良好な状態を保つことができるように、一緒に練習していくことが大切です。
 
仕上げ磨きの卒業の目安としては、「歯磨きするときの姿勢が安定している」「体を動かすことなく肩や肘を固定した状態で磨くことができる」などです。9歳前後の子の特徴として、歯ブラシではなく顔を動かして磨く子がいるので、顔は固定したまま、歯ブラシを動かして歯磨きできるようになったら、もう仕上げ磨きは卒業できます。
  
2022年8月25日 麻生キッズデンタルパーク 歯科衛生士 望月秀代さんのセミナー内容を再構成し掲載しました。

歯科衛生士 望月秀代

麻生キッズデンタルパーク
歯科衛生士
1989年より歯科衛生士として従事。
2009年から現在まで、医療法人ファイブスターズ 麻生キッズデンタルパークに勤務。
http://www.aso-kidsdental.com/

おすすめ記事

関連記事