元気に暮らしている人にとって、軽視されがちな口腔ケア。
しかし、口腔ケアは単に口の中を清潔に保つだけのものではなく、全身の不調や病気を予防するのに役立ちます。
高齢化が進み介護や支援を必要とする人が増加の一途をたどる中、口腔ケアの必要性が高まっています。
高齢者だけでなく、病気や障がいで自分でケアをするのが困難な人にとっても口腔ケアは重要です。
今回は、口腔ケアのリスクや影響から口腔ケアの必要性をご紹介していきます。
1. 口腔ケアの必要性
口腔ケアで口の中を清潔に保つことができると、さまざまな好循環を得られ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上が期待できます。
口腔ケアは口の中を清潔に保つお手入れのことですが、その効果はむし歯や歯周病、口臭の予防だけにとどまりません。口の中が清潔になり健康な状態になることは、ものを食べたり飲んだりする機能の回復につながります。
咀嚼(そしゃく)機能が回復すれば、唾液の分泌が促進され、消化吸収も良くなります。それまで口から飲食できなかった人が自分の口で食事をおいしく食べられるようになれば、栄養状態が改善され、体力や抵抗力も高まります。
高齢者にとって、食事をしっかり噛んで食べることや他人との会話は、大きな楽しみです。身体の機能を取り戻すことは、生きる活力を取り戻すことにほかなりません。さらに、高齢者がかかりやすい病気の予防にもつながります。
若いうちから口腔ケアをしっかり行うことで、自分の生活質が大きく変わる可能性があり、その必要性がたびたび取り上げられています。
2.口腔ケアでカバーできるリスク
便秘解消が期待できる菌活食材には、次のようなものがあります。
リスク1)むし歯や歯周病
リスク2)ドライマウス
リスク3)口臭がきつくなる
リスク4)食べ物の味がわからなくなる
リスク5)誤嚥性(ごえんせい)肺炎を引き起こす
リスク1)むし歯や歯周病
むし歯や歯周病の原因菌は、口の中に残った食べかすをエサにして歯こうを作り出し、そこを格好のすみかとしてどんどん繁殖します。
このまま放っておくと、増殖した細菌がむし歯や歯周病を引き起こし、歯だけでなく歯と歯ぐきを支える骨を溶かしていきます。最終的には大切な歯を失ってしまうことに繋がります。
リスク2)ドライマウス
口の中に雑菌が増えると、口腔内の健康状態が悪化します。
唾液には殺菌・抗菌作用があるので、その分泌量が低下した場合、雑菌が繁殖するのに都合の良い環境になってしまいます。
口腔内に食べかすや歯こうがたまったままでは、唾液の出口がふさがれてしまい、ドライマウスになりやすくなります。
リスク3)口臭がひどくなる
口腔ケアをおろそかにすると、食べかすやはがれ落ちた粘膜などに含まれるタンパク質をエサにして、細菌が増殖します。
それらはタンパク質を分解する際に、臭い成分となるガスを大量に作り出すため、不快な口臭が発生してしまうのです。
リスク4)食べ物の味がわからなくなる
舌には「味蕾(みらい)」と呼ばれる味を感じる器官があります。
舌に汚れがたまった状態では、味蕾の働きが邪魔されて、味覚が鈍くなってしまいます。
リスク5)誤嚥性(ごえんせい)肺炎を引き起こす
本来は食道に送られるべき食べ物が誤って気管に入ってしまい、食べ物に含まれる細菌が炎症を起こしてしまうのが「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」です。
高齢者の肺炎の7割は、誤嚥性肺炎と言われています。
口腔ケアを怠って口の中が細菌だらけになると、誤嚥性肺炎の発症リスクが高まります。肺炎は、高齢者や体力が低下している人にとって命取りになりかねない危険な病気なので注意が必要です。
3. 口腔ケアを疎かにすることで起こる悪影響
口腔ケアを疎かにすることで起こる悪影響は少なくありません。最近の研究では、次のような病気とも深い関わりがあることが示唆されています。
影響1)認知症
影響2)心臓病
影響3)糖尿病
影響1)認知症
認知症の発症リスクは、噛む能力が低下すると高まることが明らかになっています。
食べ物をよく噛めない人は、何でも噛める人に比べると認知症の発症リスクが1.5倍高まると言われています。口腔ケアで噛む力を育むことが大切です。
影響2)心臓病
口腔ケアを怠って歯周病が進行した場合、歯周病菌が血管を通って心臓に移動し、血管壁に炎症を起こします。
この炎症部分が引き金となって、心筋梗塞や狭心症といった心臓病のリスクが高まることがわかっています。
影響3)糖尿病
糖尿病の発症にも歯周病菌が関係しています。
インスリンというホルモンには、血中のブドウ糖を細胞に届ける役割があるのですが、歯周病菌にはインスリンの働きを妨げる効果があります。
インスリンの働きが妨げられると、血糖値が上がってしまうため、糖尿病のリスクを高めることにつながってしまいます。
4. まとめ
口腔ケアを適切に行うことは、私たちが口を通じて全身の健康を維持するためにとても重要です。
自分の口で食事ができることや周りの人と話ができることは、生活の質の向上につながります。
口腔ケアを怠って口の中の細菌を放置していたら、むし歯や歯周病になるだけでなく、心臓病や肺炎といった重篤な病気を招くことにもなりかねません。
心身ともに健やかな生活を送れるよう、口腔ケアを取り入れてきましょう。
監修:森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。