歯周病になると口臭が気になりだします。
口臭は個人のコンプレックスになるだけでなく、周囲に迷惑をかけてしまうということもあります。口臭を本人や周囲が気にして、コミュニケーションがうまくとりにくくなるという深刻な問題にもつながる可能性があります。
だからこそ、口臭対策はエチケットのひとつと言えるのです。
今回は、歯周病による口臭対策についてご紹介していきます。
1. 歯周病による口臭の原因
歯周病の症状として気になるのが「口臭」です。歯周病による口臭の主な原因は次の3つが考えられます。
原因1)膿
原因2)メルチメルカプタン
原因3)硫化水素
原因1)膿
膿が出ることで口臭がひどくなります。
歯周病によって歯茎が腫れ、炎症が起きると、歯根膜が崩れて膿が出ます。この膿が強い臭いを発するのです。
原因2)メルチメルカプタン
メルチメルカプタンは、口臭の原因となる揮発性硫化化合物のことです。歯周ポケットにたまった歯石によって発生し、タマネギのような臭いがします。
歯周病患者からは、高い濃度のメチルメルカプタンが検出されることから、歯周病が口臭の原因になることが分かります。
また、メチルメルカプタンは歯周病が進むに連れ増えていき、さらに歯周病を悪化させるため、口臭の悪循環に陥ります。
原因3)硫化水素
流化水素も口臭の大きな原因で、卵が腐ったような臭いに例えられます。
特に硫化水素はそれほど濃度がなくても、暴露の時間が長いと呼吸や体調に悪影響を与えます。
2. 歯周病と口腔内細菌
歯周病は、むし歯のように細菌が歯そのものを溶かして穴を空けるのではなく、歯を支える歯茎や歯槽骨に炎症性の変化を起こす病気です。
歯周病には歯周病菌という口腔内細菌が関わっていると言われており、歯の周囲で繁殖した細菌が毒素を作り、この毒素が炎症を起こして腫れたり出血しやすくなったりします。
歯と歯茎の間に溜まる歯こうや歯石には、1グラムあたり1億個以上の細菌が含まれ、そのなかには悪玉菌も多数存在します。カラダに悪影響を与える口腔内細菌を減らし、コントロールすることが、歯周病とそれによる口臭を予防することにつながるのです。
3. 歯周病による口臭を防ぐ方法
歯周病による口臭を防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。5つの方法について紹介します。
方法1)歯周病の改善
方法2)歯石や歯こうの除去
方法3)バクテリアセラピー
方法4)外科手術
方法5)歯周組織再生治療
方法1)歯周病の改善
歯周病の改善は、口臭予防のために重要です。
歯周病の改善の基本は歯みがきです。歯周病が増殖する原因となる歯こうを減らすために、食事の後は丁寧に磨きましょう。
歯周ポケットをしっかりときれいにするためには、歯周ポケットに入り込みやすい毛先の細いブラシを使用し、歯と歯茎の境目を意識してブラッシングします。
また、歯間ブラシやフロスで歯ブラシだけでは取り切れない汚れをかき出すことも大切です。
ただ、歯周病の場合セルフケアには限界があるため、上記を取り入れつつ必ず歯科医院に行く必要があります。
方法2)歯石や歯こうの除去
歯こうや歯石の除去なしに、口臭の予防は難しいでしょう。
歯の表面の歯こうは歯みがきで取れますが、歯周ポケットに入り込んだ歯石などは、歯科クリニックなどでのスケーリング治療が必要です。
歯周ポケットの奥まで歯周病が感染している場合は、歯肉縁下歯石を除去します。
歯石の表面には歯こうがつきやすいため、定期的に除去することをおすすめします。
方法3)バクテリアセラピー
バクテリアセラピーは、口腔内細菌のバランスを正常にすることを目的としており、さまざまな菌を使って行われます。
例えば、口内善玉菌を使ったバクテリアセラピーでは、口腔内の細菌をコントロールし、むし歯菌や歯周病菌の抑制が期待できます。
口内善玉菌を用いた口腔内免疫反応に対する効果試験では、口内善玉菌を摂取した被験者に歯肉溝滲出液や炎症伝達物質の減少がみられたことが報告されています。
また、ロイテリ菌を使った歯肉の腫れの変化をみる試験では、ロイテリ菌を摂取した被験者の歯肉の腫れと歯こうが減少したという報告もあります。
つまり、口腔内の細菌をコントロールすることが、歯周病の予防につながる可能性があり、口臭対策にもなるのです。
方法4)外科手術
外科手術で歯周病の原因になる、歯周ポケットの奥深くの歯石を取り除くことで、口臭を防ぎます。
歯周病が進行してしまった場合、スケーラーでの除去が難しい歯周ポケット奥の歯石を、歯茎を切り開いて除去します。
方法5)歯周組織再生治療
歯周組織再生治療とは、歯周病が進行して歯周病になって歯が抜けおちてしまった場合、溶かされた歯根膜(歯周組織)を再生させる医療技術です。
口腔内を健全にする治療によって、結果的に口臭を防ぐことにつながります。
4. まとめ
歯周病による口臭を予防するには、まず、第一に歯周病にならないようにすることが大切です。
そのためには、歯こうや歯石を除去するだけでなく、口腔内の細菌をコントロールする必要があります。単に歯みがきをするだけでは、磨き残した細菌が歯周ポケットへ入り込み、歯周病を引き起こす場合があるからです。
歯周病を予防することが口臭の予防にもつながります。歯茎や口臭が気になったら、口腔内細菌をコントロールすることを考えてみてください。
監修:森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。