口腔ケアの目的は、口の中をきれいにして「話す・食べる・表情を作る」といった口の機能を向上させることです。
心と体の健康を保ち、生活の質を高めて、人生をより一層豊かなものにするために必要なケアと言えるでしょう。
口腔ケアと聞くと、まず、歯みがきを思い浮かべると思いますが、必要に応じて粘膜のケアや保湿ケアを行うことが大切です。
口腔ケアの効果を最大限に引き出すために、正しいやり方をマスターしましょう。
1. 口腔ケアを始める前に
口腔ケアを始める前に、まず口の中の状態をチェックして、どんなケアが必要なのか確認しましょう。
万が一、気になる症状があったら、自己判断せず歯科医師へ相談してください。
チェックポイント
・むし歯やグラグラした歯がないか
・口内炎がないか
・汚れがついていないか
・食べかすが残っていないか
・歯こうがついていないか
・舌苔がついていないか
・口の中が乾燥していないか
2. 口腔ケアのやり方
口腔ケアのやり方を、順を追ってご紹介します。
ステップ1)うがい
ステップ2)粘膜ケア
ステップ3)歯みがき
ステップ4)舌みがき
ステップ5)保湿ケア
ステップ1)うがい
うがいは口腔ケアの中でも最初のステップです。うがいをすると口にたまった食べかすや粘液がある程度洗い流されて、口の中がさっぱりします。
まず、水を口に含み、右の頬を膨らませてブクブクと10回ほど口を動かします。左側の頬も同じように膨らませて10回ブクブク、最後に口の中全体を膨らませて10回ブクブクした後、水を吐き出します。これを3〜4回繰り返しましょう。
次は、ガラガラうがいです。水を口に含んで顔を上に向け、喉の奥を動かしながら15秒ほどうがいします。数回行うと効果的です。ただ、誤って気道で飲みこんでしまう誤嚥(ごえん)のリスクもあるので無理しないようにしてください。
ステップ2)粘膜ケア
粘膜のケアは、唾液を分泌する「小唾液腺」の機能低下を予防するうえでも大切です。小唾液腺の機能が弱まると、唾液分泌が低下して口の中の乾燥を招く原因となるため、歯の有無に関わらずきちんと行いましょう。
歯と唇の間、頬、舌、上あごといった粘膜部分を、スポンジブラシなどを使ってそっと拭き取ります。汚れが奥に行かないよう、必ず奥から手前へ拭き取ってください。粘膜は傷つきやすいので優しくケアすることが大切です。
ステップ3)歯みがき
歯みがきは口腔ケアの基本です。歯ブラシを使って、歯と歯ぐきの間についた食べかすや歯こうをしっかりと取り除いてください。力を入れすぎず、優しくマッサージするようにブラッシングするのがポイントです。
歯ブラシは毛先を歯に対して90度になるよう当てます。歯ブラシを小刻みに動かしながら、1本ずつ丁寧に清掃しましょう。歯と歯ぐきの境目は、歯ブラシを45度に当てて、左右に細かく動かしながら汚れをかき出します。
歯みがきに加え、歯間ブラシやデンタルフロスを使うとさらに効果的です。
ステップ4)舌みがき
舌みがきには否定的な意見もありますが、とても大事な口腔ケアの1つです。正しい方法で行うことで、口腔内をきれいにし口内炎や口臭を予防することにもつながります。
正しい舌みがきをするためには、舌みがき専用のブラシと専用のクリーナーを使って行います。
舌ブラシにクリーナーをつけ、舌の奥から優しく手前に引いていきます。この時、舌の奥に入れすぎたり力を入れすぎたりしないようにしましょう。
舌ブラシに汚れがつかなくなるのを目安にするようにし、1回で舌の汚れをきれいに取り除き過ぎないようにしましょう。数回繰り返すことで、舌をきれいにするようにしましょう。
また、舌みがきは歯みがきとは違い、1日1回に抑えるようにしてください。
ステップ5)保湿ケア
口の中が潤った状態をキープするために、保湿は口腔ケアの最後に行います。口腔内を清潔にしたあと、清潔にした指やスポンジブラシに保湿剤を適量とり、口の中全体に薄くまんべんなく塗り、最後に軽く拭き取りましょう。
口が乾くと、自浄作用が弱まって細菌が繁殖しやすくなり、むし歯や歯周病、口臭につながります。喋りにくくなったり、食べ物が飲み込みづらくなったりする症状も見られるでしょう。
3. 口腔ケアでよく使うアイテム
口腔ケアでよく使うアイテムは次のとおりです。
アイテム1)歯ブラシ
アイテム2)スポンジブラシ
アイテム3)口腔ケア用ウェットティッシュ
アイテム4)保湿剤
アイテム1)歯ブラシ
歯ブラシは、歯の表面や歯と歯ぐきの境目に毛先がしっかり当たるように、ブラシがコンパクトで小回りに効くものを選びましょう。
歯ぐきを傷つけないよう、ナイロン製のやわらかい歯ブラシがベストです。
アイテム2)スポンジブラシ
スポンジブラシは、粘膜のお手入れに役立つ道具です。
歯の本数が少ない高齢者や口が開きにくい人にも使いやすい形状になっています。歯ブラシと違って、先端部分がスポンジ状になっています。衛生面の問題から基本的に使い捨てです。
アイテム3)口腔ケア用ウェットティッシュ
口腔ケア用ウェットティッシュは、口の中の汚れを拭き取るのに使います。
通常のウェットティッシュと異なり、アルコールが入っていません。使用後にうがいをしなくていいので、うがいができない人向けの口腔ケアの必需品になります。
アイテム4)保湿剤
保湿剤は、乾燥しがちな口の中に潤いを与えます。
口腔ケアの前後や就寝前に使いましょう。スプレータイプやマウスウォッシュタイプもあります。
4. まとめ
効果的な口腔ケアを行うためには、正しいやり方を知っておくことが大切です。
口腔ケアの基本は歯みがきですが、口の中の状態に合わせて、粘膜のケアや保湿ケアを行ってください。決して無理をせず、できる範囲で行いましょう。
監修:森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。