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口腔免疫とは?口内環境を整え、全身の健康を維持することが大切

口は体の入り口であり、口内環境の乱れが体全体の健康に大きな影響を及ぼします。

口の免疫のことを口腔免疫といい、口腔免疫を正常な状態に保つことは、体の健康を維持するための第一歩です。

この記事では、口腔免疫と歯周病の基本に加え、口腔内の免疫力を保つための方法をご紹介します。

1. 口腔内は粘膜免疫システムで守られている

免疫とは、体外から侵入してきたウイルスや細菌を攻撃して病気を防ぎ、人間の体を正常な状態に保つ仕組みのことです。

免疫機能には、人体に元から備わっている自然免疫と、ワクチン接種や感染によって抗体を作り、同じウイルスや細菌に対して強力に作用する獲得免疫があります。

そして、自然免疫は主に「粘膜免疫」と「全身免疫」の2段階により構成されています。

 

異物を排除する粘膜免疫

鼻や腸管、目といった粘膜部分は、「粘膜免疫」が働いています。口腔内も同様です。

粘膜免疫は、ウイルスや細菌などの異物を排除する防御的な役割を果たします。

具体的には、粘膜表面や唾液などに分泌される「IgA(免疫グロブリンA)」という抗体が、ウイルスを囲んで粘膜への付着を防ぎ、唾液などによって流し出されることでウイルスが排除されます。

口内のIgAの質と量が整った状態であれば、インフルエンザなどのウイルスの侵入をブロックする効果も期待できます。

 

 

体内で攻撃を行う全身免疫

「全身免疫」とは、粘膜部分で排除されずに体内に侵入したウイルスを迎え撃つシステムのことです。

全身免疫には、ウイルスを直ちに攻撃する「自然免疫」と、過去に侵入したことのあるウイルスの情報を記憶し、再度侵入した際に正確に攻撃する「獲得免疫」の2種類があります。

インフルエンザなどのワクチンは、この獲得免疫の仕組みを利用して抗体を作り出すものです。弱体化したインフルエンザウイルスを予め体内に投与して、獲得免疫に記憶させておくことで、ウイルスを攻撃・排除します。

2.代表的な口内細菌「歯周病菌」が全身に及ぼす影響

歯周病の原因のひとつに、細菌の塊である歯垢(プラーク)があります。歯と歯肉の境目にプラークが蓄積すると、プラーク内に歯周病菌が増殖します。その際、身体の免疫機能によって歯周病菌が攻撃され、その結果歯肉から出血したり、歯肉が腫れたりするのです。これが歯周病の始まりとなります。

また、口内環境は善玉菌や悪玉菌などがバランスよく存在することで安定します。口内で多数・多種の菌がお花畑のように生息している状態を「口内フローラ」と呼びます。

口内フローラのケアを怠ると、結果として悪玉菌が増え、歯周病になりやすくなるのです。

 

歯周病は「万病のもと」

歯周病は進行すると口内だけに留まらず、細菌由来の病原因子や炎症物質が血管を通じて全身に巡り、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、骨粗鬆症、妊娠中の早産や低出生体重児出産を引き起こす可能性があると報告されています。

特に、高齢者や寝たきりの患者は、喉の異物を排除する力や飲み込む機能が弱まることで、口内を清潔に維持しづらくなります。そのため、口内に存在する肺炎菌が増殖して、口内から気管、肺へと吸引され、誤嚥性肺炎を発症する可能性が高まってしまうのです。

 

口腔内の環境悪化から始まるメタボリックドミノ

口腔内の病気は生活習慣病や全身疾患などさまざまな病気の発症につながります。

まるでドミノ倒しのように次々と枝分かれして発症する現象は「メタボリックドミノ」と呼ばれており、虫歯や歯周病は「ドミノの上流」だといえます。

口内で繁殖した悪玉菌が多すぎると、免疫機能だけでは対処しきれません。歯周病を予防するためには、日頃から十分な口腔ケアを実施し、悪玉菌を増やさないよう努力する必要があります。

 

3.口腔ケアは感染症のリスク軽減にもつながる

口内を清潔に保つことは、口腔内の病気を防ぐだけでなく、インフルエンザや肺炎、新型コロナウイルス感染症などの感染症からも身を守ることにつながります。

感染症は「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」といった3つの侵入経路があり、口はいずれの感染方法でも侵入経路になりえます。

既に抗体が備えられているウイルスが人体に入ると、通常は獲得免疫が働きます。しかしながら、新型コロナウイルスのような未知のウイルスに対して、人体は獲得免疫を持ち合わせておらず、口や鼻、目といった粘膜免疫が「防御壁」です。この口内の粘膜免疫を正常に働かせるためには、口腔ケアが重要となります。

4.日々の口腔ケアで免疫力を高める

口内フローラを保ち、清潔な状態を維持するためには、毎日の歯磨きといった「セルフケア」、歯科医院でのメンテナンスの「プロケア」、善玉菌を摂取し口腔内の環境を整える「バクテリアセラピー」の3つが有効です。

歯の周辺をケアするセルフケアやプロケアは有効ですが、免疫が働き続けるための環境を作る口腔ケアも重要です。

「バクテリアセラピー」とは、予防医療大国・スウェーデン発祥の健康法であり、近年歯科医師を中心に注目を集めています。

抗菌剤で善玉菌も殺菌してしまう「口内殺菌」に代わり、バクテリアセラピーでは生きた善玉菌である乳酸菌(プロバイオティクス)を摂取することで、悪玉菌を抑制して口内の菌バランスを整えます。

 

口内の良い細菌バランスを維持する

 

人間の体には500兆を超える数の細菌が潜んでいるといわれています。

細菌には人体に有益な「善玉菌」、病気などの原因になる「悪玉菌」などが存在します。必ずしも善玉菌だけが体内にいる状態がよいわけではなく、悪玉菌なども含むバランスを良好にすることが健康維持につながります。

現代の食生活は肉が中心で、野菜が少なくなりがちです。肉類に含まれるたんぱく質やアミノ酸は悪玉菌のエサであることから、現代人は悪玉菌が増えやすい生活習慣を送っていると言えます。

体の入り口となる口内へ生きた善玉菌を補給することで、体内の細菌バランスを保つだけでなく、歯周病やむし歯、口臭の予防効果が期待できます。

5. まとめ

健康を保つためには、改めて自身の体の免疫機能や口腔ケアについて見直す必要があります。

口は体の入り口であり、全身の健康を維持するためには、口腔ケアが必要不可欠です。

口腔ケアは、すべての菌を殺菌するような従来の考え方から、善玉菌を残して細菌バランスを整え、口内フローラを維持するという考え方が主流となっています。北欧発の健康法、バクテリアセラピーが良い例と言えるでしょう。

毎日のブラッシングや定期的な歯科医院でのメンテナンスに加え、新しい健康法をうまく取り入れながら、口腔ケアを適切な方法で続けていきましょう。

監修:若林 健史 先生

若林健史|Kenji Wakabayashi

歯科医師歯周病専門医若林歯科医院院長

1982年日本大学松戸歯学部卒業。
1989年東京都渋谷区代官山にて開業。
2014年医院を代官山から恵比寿南に移転。
2016年東京都港区南青山にてオーラルケアクリニック青山開院。
2017年日本大学客員教授。

日本歯周病学会理事・専門医・指導医、日本臨床歯周病学会認定医・指導医・歯周インプラント指導医、米国歯周病学会会員等を務める。
歯周病専門医・指導医として歯科医師向けや一般市民向けの講演を多数行っている。

https://wdental.jp/

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