ニューノーマルな日常の中で、私たちは、常に感染対策をしながら生活を送ることが当たり前になりました。自分自身で感染を防ぐ方法に様々な対策が注目されはじめています。冬場、空気が乾燥し始め、例年であればインフルエンザの流行が心配される時期において、対策としてより一層重要なのは、免疫力を高め、自衛することです。
1. 口はウイルスの侵入口
免疫とは、外から侵入してきた細菌やウイルスなどを異物として攻撃・排除し、私たちの体を正常な状態を保つために備わっている、自己防御機能です。
私たちが持つ免疫機能には、2つの要素があります。1つは侵入してきた異物にすぐさま立ち向かう自然免疫。もう1つはワクチン接種や感染によって経験したウイルスの特徴を覚えて抗体を作り、同じウイルスが入ったときに強力に対応する獲得免疫です。
新型コロナウイルスのような未知のウイルスにおいては、獲得免疫は未だ持ち合わせていないため、口腔・鼻腔・腸管などにある自然免疫、特に「粘膜(の)免疫」が第一の防御壁になります。
感染症が体内に侵入する経路は、ウイルスのついたところを触った自分の手を口元に持っていくことによる「接触感染」、咳やくしゃみによって飛び散ったウイルスを口や鼻から吸い込む「飛沫感染」、空気中に飛んでいるウイルスを口や鼻から吸い込む「空気(エアロゾル)感染」の3つです。
ウイルスの感染部位と侵入経路
このように、口はウイルスの主な侵入経路ということができます。しかし、ウイルスが口の中に入っただけではまだ「感染」してはいません。口腔内では自然免疫である粘膜免疫が働いています。口は感染を水際でくい止めるための、重要な部位なのです
2. 口腔免疫の要「IgA」が感染を防ぐ!
感染防御に働く粘膜免疫で、要の役割を担っているのがIgA(免疫グロブリンA)です。粘膜表面に分泌され、唾液中にも含まれています。ウイルスが生きた細胞に入り込むことで感染しますが、細胞に体内に侵入させないことがIgAの役目。口の中に入ったウイルスを複数のIgAで取り囲み、粘膜への付着を防ぎます。IgAにつかまったウイルスは唾液によって洗い流され、排除されるというしくみです。
IgAが細菌やウイルスをブロックするしくみ
口腔環境が良く、口内のIgAの質も量も整っている状態であれば、ウイルスの体内侵入をブロックすることができます。実際に、口腔ケアによってインフルエンザの発症率が10分の1に下がった、という試験結果*もあり、口腔ケアが感染予防に役立つことは立証されているのです。(*奥田克爾ほか:平成15年度厚生労働省老人保健健康増進等事業,口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する健康事業報告,地域保健研究会,東京,2004)
3. 口腔環境が全身の免疫にも貢献
IgAの多い口腔環境は、全身の免疫にかかわる腸内の環境にも貢献することがわかっています。口内のIgAが細菌やウイルスを除去することで、腸に流入する悪い菌を減らし、腸内の悪玉菌増加を抑えるのです。腸内フローラの善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスがとれていると、全身の免疫力が上がって、病気にかかりにくくなります。
また、腸の粘膜からもIgAは分泌されて病原菌などを除去するように作用していますが、腸内フローラが良い状態であれば、分泌されるIgAの質や量も向上します。
ウイルスから身を守る感染予防策として粘膜免疫を正しく機能させるために、口腔を含めた対策がとても大切です。うがい、手洗い、に加えて日々できる感染対策としてぜひ意識しましょう。
2020年11月13日 大阪大学寄付講座教授 森下竜一先生のセミナー内容を再構成し掲載しました。
監修:森下竜一先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。