正しい歯の磨き方を実践したり、歯磨き粉の成分を気にしたりするなど、工夫していらっしゃる方も多いと思います。ただ、「毎日きちんと歯磨きをしているのに、むし歯になってしまった」という経験をしたことがある方は決して少なくありません。
そうした場合は、むし歯になってしまう他の原因があるかもしれません。その中の一つの原因が、ストレスだと言われており、むし歯とストレスの関連についてさまざまな報告がされています。
そこで今回は、ストレスとむし歯の意外な関係性や、もしもストレスで歯が痛くなってしまったときの対処法、むし歯にならないための対策などをご紹介します。
ストレスがむし歯を引き起こす理由
ストレスがむし歯を引き起こす理由は、ストレスにより体がさまざまな反応をみせるためと言われています。むし歯になりやすいストレスによる体の反応とは、どのようなものがあるのでしょうか。
ストレスがむし歯を引き起こす理由には、大きく次の2つのものが挙げられます。
理由1.唾液量の減少
理由2.歯ぎしり
唾液量の減少
唾液量の減少は、口腔内の衛生に大きな影響を与えると言われています。
口腔内は常に唾液が湧き出ていて、歯の周りにある食べ物のカスなどを洗い流してくれる役割があります。他にも、唾液には抗菌作用があり、むし歯の原因菌などが繁殖することを防ぐ役割ももっています。
ストレスがかかると唾液の分泌量が減り、口の中がねばついたりします。通常1日あたりおよそ1ℓ超の唾液が分泌され口腔内の衛生を保ってくれますが、唾液量が減少した口腔内は雑菌にとって好環境となってしまいます。
それが、ストレスによりむし歯になる原因の1つと考えられています。
歯ぎしり
歯ぎしりは睡眠中に多いと思われがちですが、人間は日中でもストレスを感じたりすると、奥歯を強く噛みしめたりぎりぎりとすり合わせたりすることがあると言われています。
歯ぎしりによって歯の表面がすり減ると、むし歯になるリスクが高まりますし、歯ぎしりで歯が欠けてしまい、そこからむし歯になってしまうケースも見受けられます。
また、強く噛みしめる歯ぎしりはむし歯や歯痛だけでなく、顎が痛い、顎が疲れた感じがするなどの症状も引き起こすと言われています。
ストレスはむし歯でない歯痛も引き起こす
ストレスはむし歯でない歯痛も引き起こすと言われていることをご存知でしょうか?
歯痛=むし歯と捉えられがちですが、中にはストレスによって引き起こされる、むし歯ではない歯痛もあります。
むし歯ではない歯痛には、筋性歯痛、神経障害性歯痛、神経血管性歯痛などがありますが、これらに当てはまらない「心因性」の歯痛も存在します。軽度なストレスではあまり見られないようですが、度重なって重度のストレスとなり、原因不明の歯痛を引き起こすことがあると言われています。
むし歯はないのに歯痛が治まらない、治療を繰り返しても治らないなどの場合は、心因性の歯痛を疑ってみるといいかもしれません。
ストレスによるむし歯や歯痛を抑える方法
ストレスによるむし歯や歯痛を抑える方法として、日頃から行えるものがたくさんあります。その中から代表的なものを3つご紹介していきます。
1.軽運動でストレスを発散する
2.こまめな水分補給
3.マウスピースの装着
軽運動でストレスを発散する
軽運動やストレッチでストレスを軽減させるという研究報告があります。軽いウォーキングなど軽運動で気分転換したり、あまり時間のない方は軽いストレッチをしたり、体全体をゆっくり動かすようにしましょう。
こまめな水分補給
こまめな水分補給は口腔内の乾燥を防ぐ役割もあり、唾液が少ない場合は唾液の代わりに歯の周りのカスなどを洗い流してくれます。雑菌繁殖を防ぐ観点からも、日頃からこまめな水分補給を心がけましょう。
マウスピースの装着
マウスピースの装着という方法もあります。睡眠中の歯ぎしりは自己コントロールが不可能なため、マウスピースの装着がおすすめです。一般にも多く販売されていますが、取り扱っている歯科医院も多くあるようです。
まとめ
むし歯はブラッシングの不備だけで起こるものではありません。
日頃からストレスを溜めないように注意し、あわせてブラッシングやフロスを使用するなど、基本的な口腔ケア(オーラルケア)を行いましょう。
監修:森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。