口腔環境が全身の免疫に関与
寒さが増し乾燥する季節になると、様々な感染対策が注目されはじめます。また、新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちは、常に感染対策をしながら生活を送ることが当たり前になりました。
個人ができる感染対策として非常に重要なのは、消毒などもありますが自身の免疫力を高めることです。特に自然免疫に属する「粘膜免疫」が重要です。粘膜免疫は、様々な感染症でウイルスの体内への入口となりやすい口や、全身の免疫に関与する腸管などで、病原体となるウイルスを排除します。
ウイルスの入り口になりやすい口腔の免疫機能を高めるために大切なのが、口腔を「良い状態」にしておくことです。口の中の細菌は、ウイルスが体内の細胞へ侵入・増殖するのを助けます。清潔で歯周病などの炎症が起きていない「良い状態」であれば、免疫が本来の力を発揮できるのです。
また、口内の環境は、体内で最も大きな免疫器官である腸の細菌叢(腸内環境)にも関係することが近年わかっています。口内の細菌は唾液とともに飲み込まれ、上気道や消化管に移動し、定着するためです。つまり、口内の環境を整え、口内から腸に流入する悪い菌を減らすことで、腸内環境を保つことにもつながるのです。
腸内環境が良い状態なら、腸の粘膜免疫も効果的に働くことができます。粘膜免疫を正しく機能させるためには、口腔から対策を始めることが重要といえるのです。
口腔ケアの三種の神器
口内環境を良い状態に保つために重要なのは、歯磨き・歯間ブラシ、舌磨きなどの「セルフケア」、歯科医院による検診や歯科医師・歯科衛生士によるメンテナンスの「プロケア」、そして、口腔環境にとって良い働きをする善玉菌(生菌の乳酸菌など)を摂取することによって口腔内の環境を整える「バクテリアセラピー」の3つのセットです。
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病気の予防・治療を促進する注目の「バクテリアセラピー」とは
口内や腸内をはじめとして、ヒトの体には500種類にも及ぶ細菌が500兆個以上、総重量にして約2kgも棲息しているといわれます。
この膨大な量の菌は、ヒトに有益な「善玉菌」、病気の原因になるなどヒトに害をもたらす「悪玉菌」、優勢な菌に合わせて善玉にも悪玉にもなりうる「日和見菌」の3つに分類されます。健康のためには悪玉菌を増やしすぎず、良好なバランスを保っていることが大切です。
バクテリアセラピーは、ヒトにとって有益な「善玉菌」を補給し、ヒトの体内に住み着いている菌のバランスを整え、健康を維持、病気を予防する考え方です。善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスは、食べたものや体調、ストレスなどによって変化します。
日和見菌や悪玉菌を暴走させないために、生菌の善玉菌を摂取するバクテリアセラピーを行うことで、体内に常在する菌の質やバランスを改善し、健康を維持することが可能です。
バクテリアセラピーを行うメリット
バクテリアセラピーのメリットは、善玉菌による作用であるため、薬剤耐性菌を生み出すリスクがないことです。抗菌剤を使い悪玉菌と減らすこととはこの点が大きく異なります。
また、体内の善玉菌を減らす心配がないため、副作用がないことです。さらに、善玉菌を増やすことで効果の持続が期待できます。
抗菌剤を避けたい赤ちゃんや妊婦、薬剤耐性菌を保有してしまった人に対する治療の選択肢としても近年注目されています。
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バクテリアセラピーに用いられる生菌の善玉菌
歯科クリニックなどの医療機関でもバクテリアセラピーに用いられている生きた乳酸菌は善玉菌の一種です。
悪玉菌の発育を抑える働きがあるだけでなく、ビフィズス菌などの複数の善玉菌と共存できるので、副作用なく、口内の菌環境を良好にすることができます。
酸の力が弱く、むし歯の原因になりにくいことも特徴の1つ。また、ヒトの口から大腸まで全ての消化管に定着できる特徴から、世界100か国以上でバクテリアセラピーに活用されています。
【バクテリアセラピーの3大特徴】
2020年11月13日 歯周病専門医 若林健史先生のセミナー内容を再構成し掲載しました。
監修:若林 健史 先生
歯科医師 歯周病専門医 若林歯科医院院長
1982年日本大学松戸歯学部卒業。
1989年東京都渋谷区代官山にて開業。
2014年医院を代官山から恵比寿南に移転。
2016年東京都港区南青山にてオーラルケアクリニック青山開院。
2017年日本大学客員教授。日本歯周病学会理事・専門医・指導医、日本臨床歯周病学会認定医・指導医・歯周インプラント指導医、米国歯周病学会会員等を務める。
歯周病専門医・指導医として歯科医師向けや一般市民向けの講演を多数行っている。