健康意識の高まりから、口内環境を気にする方もいるのではないでしょうか。清潔感のある口内環境をキープすることは、第一印象に影響するだけでなく、さまざまな病気の予防につながると注目されています。
この記事では、口内環境を悪化させる原因や体への影響、口内環境を改善する方法についてご紹介します。
1. 口内環境が悪くなる原因は?
口内環境は気づかないうちに悪化しているケースも少なくありません。口内環境が悪化する原因について、「口内トラブル」と「生活習慣」の2つの側面から解説します。
歯みがき不足や口呼吸、歯ぎしりなどによるもの
以下のような口内トラブルは、口内環境の悪化を引き起こします。
歯みがき不足
歯みがきが不十分だと、歯に付着した細菌が繁殖して歯垢(プラーク)が増殖し、歯肉炎を引き起こします。歯垢を放置したままでいると、細菌が唾液中のカルシウムと結合して歯石が発生します。歯石の表面には細菌が多く、歯垢も増殖しやすいため、歯周病がより進行するなど口内環境を悪化させる要因になります。
歯並び
普段歯みがきの習慣がある人でも、歯並びが悪い箇所は汚れがたまりがちです。特に、歯に合っていない修復物(詰め物など)の周りは歯垢がたまりやすいため、丁寧な歯みがきが必要です。
口腔習癖
「口呼吸」や「歯ぎしり」などが癖になっている場合は注意が必要です。口呼吸によって粘膜や歯ぐきが乾燥すると歯垢が蓄積しやすくなり、炎症も起きやすくなります。また、歯ぎしりなど歯に負担がかかる状態も歯周病を引き起こすなど口内環境悪化の要因になります。
喫煙やストレス、食生活など生活習慣によるもの
日々の生活習慣にも、口内環境を悪化させる原因が潜んでいます。
喫煙
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて歯肉の血行不良を引き起こします。さらに、タバコに含まれる一酸化炭素は歯周組織の酸素欠乏を引き起こし、歯周組織の抵抗力が弱まり歯周病の悪化につながります。
ストレス
過度なストレスによって抵抗力が低下するなど、口内環境が悪化しやすい状況が生まれます。また、歯に負担のかかる歯ぎしりなどがストレスによって助長されることもあり、歯周病をさらに悪化させる要因にもなります。
食習慣
甘いものの過剰摂取は、むし歯や歯周病の原因である歯垢の増殖を促進させます。また、不規則な食事や栄養の偏りは、歯周組織の抵抗力の低下にもつながります。
2. 口内環境の悪化によるさまざまな影響
口内環境が悪化すると私たちの体にはさまざまな悪影響が生じます。具体的な口内トラブルや全身への影響についてそれぞれ解説します。
口内におけるトラブルが出る・増える
まず、最も代表的な口内トラブルは、細菌の付着によって発生する炎症性疾患の「歯周病」です。歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」に分類されます。
歯肉炎とは、歯肉が赤く腫れるなど炎症がある状態を指し、原因となるのは歯と歯の間や歯と歯肉のすき間に蓄積された歯垢や歯石です。一方、歯周炎は、歯肉炎を放置することで起こり、歯を支えている歯槽骨が炎症によって破壊される病気です。症状が進行すると歯がグラつき最終的には歯を失う恐れもあります。
また、多くの人を悩ませている口内トラブルに「口臭」が挙げられます。代表的なものが「生理的口臭」です。唾液の分泌が減少し、細菌が繁殖して口臭の原因物質が増殖することで起こり、起床直後や空腹時、緊張時は特に強まります。しかし、誰にでもある臭いであり、生活習慣の改善で良くなります。そのほか、ニンニク・ネギ・酒・タバコなどによる一時的な「飲食物・嗜好品による口臭」もあります。
問題なのは、口内環境の悪化によって起こる「病的口臭」です。呼吸器や消化器系の病気によって起こる口臭もありますが、病的口臭の90%以上は、歯周病やむし歯、歯垢、舌苔など口内環境が原因で発生するといわれています。
口内環境の悪化は全身の健康にも影響
口内環境の悪化は、全身の健康へも強い影響を与えます。特に、歯周病は以下のようにさまざまな全身疾患と関連していることがわかってきました。
糖尿病
糖尿病により免疫機能が低下すると、歯周病は悪化します。その一方で、歯周病のある糖尿病患者に歯周病の治療を行うと、血糖コントロールの指標となるHbA1cが改善するという結果も出ており、歯周病と糖尿病は相互に影響し合う関係であることが示されています。
心疾患
歯周病を放置していると、狭心症や心筋梗塞など動脈疾患を引き起こす可能性も指摘されています。歯周病原因菌などの刺激により、動脈硬化を誘導する物質が血管内にプラーク(脂肪性沈着物)を作り、血液の通り道を細くさせます。プラークが剥がれて血の塊ができると、血管が詰まる恐れがあります。
誤嚥性肺炎
高齢者や口腔機能に障害を持つ人は睡眠中などに食べ物や唾液が気管に入る「誤嚥」を繰り返すケースが目立ちます。この誤嚥により歯周病菌などの細菌が呼吸器に侵入して、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。
早産や低体重児出産
歯周病患者が妊娠している場合、低体重児出産および早産の危険度が高くなることが指摘されています。口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接影響すると考えられています。
そのほか、慢性腎臓病、呼吸器疾患、骨粗鬆症、がん、関節リウマチなど、さまざまな病気との関連が指摘されており、歯周病は全身の健康に影響を及ぼすと考えられています。
口内バランスの崩れがやがて免疫力低下にも
口内環境の悪化は体の免疫力の低下にもつながりかねません。私たちの病気の多くは、体に害を与える細菌など微生物の力と免疫力のバランスが崩れたときに発症します。健康状態を保つためには、免疫力が優位になるようにバランスを整える必要があります。
また、口の中には「常在細菌」が多数存在し、この中には良い働きをする菌(善玉菌)も悪い働きをする菌(悪玉菌)もいます。口内環境のバランスを保つためには、悪い細菌の塊である歯垢や舌苔を減らす必要があり、そのためには口腔ケアが有効です。
口内にはもともと粘膜免疫というシステムが備わっており、害を及ぼす微生物が侵入すると、「IgA」という抗体が働き、排除してくれます。しかし、口の中が汚れていればこのシステムによる防衛力も低下します。細菌を適切な口腔ケアで減らして、口内の免疫能力を最大限に引き出しましょう。
3. 口内環境を改善する方法
続いて、口内環境を改善するための具体的な方法について解説します。
口内フローラのバランスを整える
口内環境を改善するためには、「口内フローラ」のバランスを整えることが大切です。
口内にある常在細菌を分類すると、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種類に分かれます。これらの無数の細菌は、集団を作って生息しており、その様子がお花畑のように見えることから「口内フローラ(口内細菌叢)」と呼ばれています。口内フローラの理想的なバランスは、「日和見菌を含んだ善玉菌10:悪玉菌1」といわれており、口内フローラを良好に保つには、口腔ケアなどによってしっかりと歯垢を取り除き、悪玉菌を増やさないことが大切です。
唾液の分泌を促す食事やマッサージを取り入れる
唾液の分泌を促すことも、口内環境の改善につながります。唾液には口内の粘膜に付いた菌を洗い流す作用や抗菌作用があり、病気や口臭を予防する働きをします。口内環境を改善するためには、日常生活で唾液の分泌を増やす心掛けも大切です。
例えば、食事をする際は、よく噛んで食べることで唾液の分泌を促せます。また、口呼吸による口腔内の乾燥を防ぐための「鼻呼吸」や、こまめに水分を補給して口内の乾燥を防ぐことも効果が高いとされています。そのほか、耳の下や顎の下にある唾液腺を刺激する「唾液腺マッサージ」もおすすめです。
唾液の分泌を促進させるといわれている、レモン、梅干し、昆布、納豆、セロリ、ニンジン、アーモンドなども意識的にとりましょう。
プロバイオティクス(優れた善玉菌)の摂取
口内環境を改善するためには、プロバイオティクスと呼ばれる優れた善玉菌を食生活に取り入れるのもおすすめです。
身近なプロバイオティクスとしては、乳酸菌やビフィズス菌などがあり、これらを含む乳製品やタブレットなどのサプリメントで取り入れる方法があります。プロバイオティクスを継続的に摂取することで、口内の悪玉菌を抑えて善玉菌の比率を上げ、口内環境を整えます。
4. 口内環境が乱れるとウイルス感染症のリスクが高まる?
口内環境の良し悪しは、ウイルス感染症とも密接に関係しています。口内環境を改善するための正しい口腔ケアを知って、予防に役立てましょう。
口内環境とウイルス感染症の関係
口内環境が悪化していると、ウイルス感染症にかかるリスクが高まります。
しっかりと歯を磨けていなかったり、むし歯や歯周病を放置していたりすると口内の細菌数が増加します。また、昨今ではインフルエンザやコロナウイルス感染症対策にマスクを着用する場面が増えています。マスクの着用は口呼吸を促しやすく、水分補給の機会が減ることで口内の乾燥を招き、唾液量が減少してしまう可能性も指摘されています。
このように、唾液の減少などの理由から細菌が増加すると、一部の細菌が出した物質が粘膜免疫の防御機能に影響を与え、抵抗力が弱まった粘膜にウイルスが入りこみやすくなるのです。
正しい口腔ケアで口内環境を改善して感染予防に努めよう
正しい口腔ケアで口内環境の改善ができれば、ウイルス感染症の予防にもつながります。口内の歯垢や歯石を除去し、唾液量のある状態に保つための対策を紹介します。
歯科医院で口腔ケアを受ける
歯科医院で歯科衛生士の口腔ケアを受けたり、自分が正しい歯みがきを行えているかチェックしてもらったりしましょう。定期的な歯石除去や歯面清掃を行いながら、むし歯や歯周病の早期発見と治療を行うと口内環境を改善できます。
歯周病の予防
歯周病を放置すると歯と歯ぐきの間の溝が深まり、歯周ポケットが生まれます。歯周ポケットは、口臭や体の病気などさまざまな原因につながりやすいため、歯みがきなどのセルフケアでしっかりと歯周病を予防しながら、歯科医院で専門的な対策を行いましょう。
セルフケアで口内環境を改善する
歯みがきはもちろん、歯間ブラシやフロスを使った歯と歯の間のフロッシングも効果があります。歯みがきで取りづらい箇所の歯垢除去や、薬用洗口液でのマウスウォッシングで口内細菌の数を減らして口内環境を清潔に保ちましょう。
清潔なマスクの着用
食前や食後、移動先では清潔なマスクへ付け替えるなど、マスク自体も清潔な状態を保てるとウイルス感染症を予防できます。
5. まとめ
口内環境の悪化は、私たちの生活習慣と密接なつながりがあります。口内環境が悪化すると、むし歯や歯周病などの口内トラブルだけでなく、糖尿病や心疾患などさまざまな病気の発生に影響するため、口内は清潔に保つことが大切です。毎日の歯みがきをベースとして、食事の内容を工夫したり、マッサージを行ったりして口内フローラのバランスを整えましょう。
また、歯科医院で歯科衛生士の口腔ケアを受けるとより効果的です。口内環境を整えて全身健康を目指しましょう。
若林健史
医療法人社団真健会理事長/歯学博士
日本歯周病学会理事・専門医・指導医、日本臨床歯周病学会・認定医・指導医、日本大学客員教授、日大松戸歯学部歯周治療科非常勤講師。歯周病治療の第一人者。歯科医療に対するいっそうの信頼の確保と、学術的な前進にも貢献している。