新型コロナウイルス感染症の流行が続く現在、自分の体を守る手段として、免疫力の強化に関心を持っている方は多いのではないでしょうか。
体に入ってきた異物を除去する免疫機能がうまく働かないと、新型コロナウイルス感染症だけでなくさまざまな病気にかかる危険性が高まります。
免疫機能を高めるための一つの方法として、腸内環境を整えることが大切だといわれています。腸内環境の改善・維持を図るためには、適切な食事や規則正しい生活習慣などに加え、口内環境を健康に保つことも重要です。では、具体的にどのようなことを行えばよいのでしょうか。
この記事では、腸内環境と免疫の関係や、免疫を高めるために必要な栄養素、腸内環境を改善するための生活習慣、腸と口のつながりなどについて解説します。
1.良好な腸内環境は免疫力を高める
免疫とは、体外から侵入してくる細菌・ウイルスなどの「抗原」と呼ばれる異物を攻撃・排除する自己防衛機能です。免疫力が低下すると、病気や感染症にかかりやすくなるだけではなく、悪化する可能性も高まります。
免疫は、「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類に分かれています。自然免疫は侵入してきた抗原に反応するもので、獲得免疫は過去の感染やワクチン接種などにより、記憶した抗原の特徴から抗体を作るものです。
免疫を高めるには、腸内の環境を整えることが効果的です。なぜなら、免疫細胞の60%~70% は腸内に存在するといわれており、腸内環境が良好であれば、多くの免疫細胞が活性化し、体全体の免疫力を高く保つことにつながります。
腸内環境を整えるためには、発酵食品の摂取が有効です。さまざまな種類の発酵食品がありますが、よく知られているものには乳酸菌が含まれたヨーグルトやチーズ、納豆菌で作られる納豆、麹菌や酵母菌が関わっている味噌やしょうゆなどがあります。発酵食品は、腸内の善玉菌の数を増やすといわれており、それによって悪玉菌やそのほかの菌とバランスが取れ、腸内環境の健康を維持できます。
2.免疫力を高める食事の取り方とは?
体の栄養状態が悪いと、免疫機能が弱まってしまいます。
免疫力を高く保って健康を維持するには、適切な食事で十分な栄養を摂取することが重要です。体に必要な栄養素を理解して、なるべく多くの種類の食材をバランスよく食べるようにしましょう。
ここでは、免疫力を高めるために意識すべき食事のポイントや、必要な栄養素などについて解説します。
免疫を高める食事のポイントと必要な栄養素
免疫力を高めるためには、食事の際、どのような点に注意したらいいのでしょうか。以下に、食生活で意識したいポイントと摂取したい栄養素を挙げました。
・免疫細胞そのものを活性化させる食べ物を取る
細胞の素材になるタンパク質や細胞の免疫機能を保持するビタミン・ミネラル類は、免疫細胞の生成や活動の活性化に欠かせない栄養素です。これらが豊富に含まれる肉・魚・大豆・キノコ・ブロッコリー・カボチャなどの食材を多く取るように心がけましょう。
・活性酸素の働きを抑える食べ物を取る
活性酸素は、通常、免疫機能に重要な役割を担っていますが、過剰に生成されると、細胞が傷つけられて免疫機能の低下や老化・ガン・動脈硬化などにつながる恐れがあります。主にビタミンA・C・Eやポリフェノール、β-カロテンなどを摂取すると、活性酸素の働きを抑えやすくなります。
代表的な食材には、ビタミンAが豊富なニンジン、ビタミンCやポリフェノールを含むレンコン、ビタミンC・Eを多く含むブロッコリー、ビタミンC・Eとβ-カロテンを豊富に含むカボチャなどが挙げられます。
・腸内環境を整える食べ物を取る
腸内には免疫細胞の多くが存在するため、腸内の環境を整える栄養素を取ることは免疫力アップに効果的です。腸内環境の改善のためには、人間にとって有益な「善玉菌」と呼ばれる細菌を増やす必要があります。
善玉菌として代表的なのが乳酸菌です。ヨーグルトやチーズ、漬け物などの発酵食品に多く含まれています。
そのほかにも、善玉菌の働きを活性化させるオリゴ糖や、腸の活動状態を良好にする食物繊維の摂取も重要です。
・さまざまな食材を取り入れ、バランスよく食べる
腸内環境を整える際は、さまざまな食材をバランスよく食べることも重要です。人によっては「腸に良い」とされるものを食べても効果を感じられない場合があります。腸内細菌には非常に多くの種類があり、腸内の細菌構成も一人ひとりで異なります。
つまり、腸内環境は人それぞれ異なるため、ほかの人に有効な食材が自分にも効くとは限りません。さまざまな食材を積極的に試して、自分に適した食材を見つけましょう。
・体を温める食材を選ぶ
ショウガ・ニンニク・根菜類などの体を温める食材を取れば、腸内の血流を良くして代謝を上げられます。発酵食品も酵素が多く含まれているため、新陳代謝を促して体を温めるといわれています。体温が1度下がると免疫力は30%下がる とされており、体の冷えや基礎体温が低い状態は健康によくありません。
免疫を高めるおすすめの食材や食べ物、飲み物
ここでは、免疫力アップにおすすめの食材や食べ物、飲み物をご紹介します。
・きのこ類、海藻類
ミネラル、食物繊維を含んでいます。特にきのこは、ビタミンDやβグルカンも含んでおり、骨の強化や、抗ウイルス・抗腫瘍効果も期待できます。また、低カロリーのためダイエット向きの食材です。
・緑黄色野菜
ビタミン、ミネラル、食物繊維など、多くの栄養素をまとめて摂取できる緑黄色野菜は、免疫力を高める作用のほか、活性酸素の働きを抑えたり目や粘膜の健康を維持したりする効果も期待できます。
・肉類、魚類、豆類、卵、乳製品
良質なタンパク質を摂取できるほか、人間が体内で作れない必須アミノ酸をバランスよく含んでいるため、毎日摂取するのがおすすめです。
・発酵食品
善玉菌を増やすには発酵食品を摂取しましょう。ヨーグルト・チーズ・味噌などは、善玉菌と同時にさまざまな酵素も含まれており、継続的な摂取が効果的だとされています。また、酵素を摂取すると代謝が良くなり体を温めることにつながるといわれています。
ヨーグルト飲料、にんじんジュース、ショウガ茶などおすすめの食材や食品を使って、飲み物を作るのもおすすめです。忙しい朝や間食の際に手軽に栄養を摂取できます。
免疫力を高めるためにサプリメント を活用するのもおすすめ
毎日バランスのよい食事を取ることが理想ですが、食事だけでは十分な栄養を摂取するのが難しい場合もあるでしょう。特定の栄養素を容易に補給できるサプリメントをうまく活用すれば、食事を補い免疫力のアップにつなげられます。
現在、「ビタミンD」「ビタミンC」「亜鉛」などさまざまな種類のサプリメントが商品化されています。カルシウムの吸収を助けて骨を強くするビタミンD、活性酸素やストレスへの抵抗力を高めるビタミンC、細胞の修復や免疫細胞の活性化に役立つ亜鉛など、それぞれ異なる特徴を持っています。
近年は、乳酸菌のサプリメントも発売されており、タブレットや粉末、カプセルなど手軽に摂取できると注目されています。
なお、薬を服用しながらサプリメントを使用するときは、あらかじめ医師に相談するとよいでしょう。サプリメント同士の組み合わせや別途服用している薬との相性次第で、体に悪影響が出る可能性があります。
3.免疫力を高めるには生活習慣も大切
ここまでは「食」にフォーカスして解説しましたが、そのほかにも免疫を高める方法はあります。生活習慣もその一つです。適切な習慣を心がけて明るく元気に過ごすことは、免疫力の維持につながります。
逆に、体に無理のある行動を取ったり暗い気分で過ごしたりしていると、免疫力が低下していきます。免疫を高く保とうと意識しすぎてもストレスがたまってしまうため、無理をしない範囲で少しずつ健康的な生活習慣を身につけていきましょう。
ここでは、免疫力に影響を与える食生活以外の生活習慣について解説します。
免疫力を高める生活習慣のポイント
免疫力の強化には、体温を高めに保つことが大切です。風邪をひいたときに熱が出るように、体温が上がると血液やリンパの流れが良くなったり免疫細胞が活性化したりと、免疫の働きが向上します。運動や入浴、湯たんぽの使用などでほどよく体を温めましょう。
さらに、適度な運動も免疫強化に役立ちます。骨や筋肉では免疫細胞を刺激する物質が作られており、運動により骨や筋肉が刺激を受けると免疫を改善してくれます。
特に、ウォーキングのような軽く汗をかく程度の有酸素運動がおすすめです。激しい運動は体にストレスがかかり、かえって免疫力を低下させる恐れがあります。
また、笑うと免疫を司る間脳に刺激が伝わり、免疫を活性化させる伝達物質が多く分泌されます。逆に、悲しみ・ストレスなどの感情を感じると、免疫伝達物質の分泌が減少してしまいます。このため、よく笑い日々を楽しく過ごすことは健康維持に欠かせません。
免疫力を下げないために
まず、過度なダイエットは免疫力を低下させるため禁物です。断食・欠食やカロリー制限、水分の摂りすぎなどは代謝・免疫力の低下につながります。
特にカロリーが足りないと、体温低下を招きさらに免疫力が落ちやすくなります。就寝前の過度な運動も睡眠の質を低下させるため避けましょう。
また、飲酒も免疫力を下げてしまいます。アルコールを大量に摂取すると肝臓で分解しきれなくなり、肝細胞がダメージを受けます。
肝細胞へのダメージで肝機能が低下すると、栄養分がうまく体に供給されなくなり免疫システムも十分に機能しなくなるのです。お酒は一気に飲みすぎず、なるべく水などで割って飲みましょう。休肝日を設けることも大切です。
ストレスの蓄積も避けるべきです。免疫システムに影響を与える自律神経は、活動状態で優位になる「交感神経」と安静状態で優位になる「副交感神経」から成り立っています。過度なストレスがかかると交感神経だけが優位になり続け、自律神経のバランスが崩れてしまい、免疫にも不調が生じます。
4.健康な口内環境は全身の免疫にかかわる腸内環境にも貢献
ここまで、免疫を高める食生活のポイントや腸内環境を整えることの重要性などについて説明してきましたが、実は、口内環境を健康に保つことで腸内環境の改善に貢献できます。
口は食べ物やウイルスなどが最初に入る器官です。そのため、口の健康状態次第で、体に対して良い影響も悪い影響も与えうるのです。
口の病気のうち、特に歯周病には気を付けましょう。歯周病にかかると口内だけでなく、全身で多くの病気が発生するリスクも上がるといわれています。口内で歯周病菌が増えると、菌を発生させる炎症性物質や病原因子などが全身に広がっていきます。これらの物質・因子は、さまざまな重病につながりかねません。
口内環境を整えておくことで、口から侵入する細菌やウイルスの侵入を防ぎやすくなり、腸や全身への影響を最小限に抑えられます。口内には腸内と同様に多数の細菌が生息しています。体に有益な細菌を増やして有害な細菌を減らせるよう、しっかりとケアしましょう。
具体的には、歯磨きを念入りにしたり飲酒・喫煙を控えたり、十分な睡眠をとったりするとよいでしょう。健康を守るために、腸だけでなく口の健康も意識して生活することが大切です。
5. まとめ
この記事では、体の免疫力を高めるために重要な食生活と腸内環境の改善方法、腸と密接につながっている口内環境について解説しました。免疫は人間の体を守るために欠かせない機能です。
免疫が正常に機能していれば、病気になりづらく、毎日を健康に気持ちよく過ごせます。日常を快適にストレスなく過ごせれば免疫力の低下も起こりづらいため、さらに健康な体を作っていくことができます。
口内・腸内の環境を整えて、心身ともに元気な生活を送れるようにしたいですね。
参考リンク
厚生労働省
日本歯科医師会
日本臨床歯周病学会
日本臨床歯周病学会
PCP丸の内デンタルクリニック
社会福祉法人 恩賜財団 済生会
中塚製薬
大塚製薬
免疫の仕組み | 乳酸菌B240研究所
予防の立役者「IgA抗体」 | 乳酸菌B240研究所
平澤歯科
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しきしま歯科クリニック
監修 森下 竜一 先生
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授
医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。
また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。