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口腔ケアを行う目的とQOL(クオリティー・オブ・ライフ)との関係

問題が起きてからの治療だけでなく、トラブルを未然に防ぐための予防で歯科検診を受ける人が増えていますが、あなたは口腔ケアの本当の目的を理解していますか?

口腔ケアを行うのは実は、むし歯や歯周病を防ぐためだけではなく、全身の健康を守るためでもあるのです。

今回は、口腔ケアを行う目的と、しないことで生じるデメリットについて解説し、簡単にできるケアや間違った方法をご紹介します。

1.口腔ケアの目的

口腔ケアの目的は、むし歯や歯周病などを防いで口の中の健康を維持することです。ただ、お口の健康を守ることは、単に自分の歯を守ることにとどまりません。

「食べること」は人間が生きていく上での基本です。それゆえ、食べ物の入り口である口腔内をケアすることは、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)つまり「生活の質」の向上につながるのです。

具体的には、口腔ケアは以下のような目的のためにも有効と考えられています。

 

自分の歯で噛む

自分の歯でしっかり噛めると、さまざまな食品が食べられたり、唾液の量も増えるので消化吸収も良くなったりと、体全体に良い循環が巡ります。また、よく噛んで食べる人は歳をとっても自分の歯を残せる傾向にあるとも言われています。

逆に、むし歯や歯周病で歯を失うとしっかりと噛めないため、健康的な食事がとれなくなり、結果的に全身の疾患へとつながってしまうのです。

 

人間の歯は、一度削ったり失ってしまったりすると二度と元の状態に戻すことはできません。歯科治療や人工歯の技術が向上しているとは言え、自分の歯に勝るものはありません。自分の歯で噛めるというのは、とても大切なことなのです。

口腔ケアの目的は、むし歯や歯周病を防いで自分の歯を守り、健康な身体を維持していくことであると言えます。

 

肺炎などの病気の予防

肺炎などの病気の予防にも、口腔ケアが重要とされています。

特に高齢者が肺炎を引き起こす原因の70~80%は、口腔内の雑菌を含んだ唾液が気道に流れ込む「不顕性誤嚥」と言われており、誤嚥性肺炎の引き金となります。そして、そのほとんどは睡眠中に無意識の状態でおこります。

実は、この不顕性誤嚥を引き起こす原因菌のほとんどが歯周病菌であるため、予防のためには口腔ケアが重要なのです。

実際に、口腔ケアを行うことによって、肺炎の発症を40%減少させられるというデータも確認されています。また、高齢者で肺炎を発症してしまった場合、口腔ケアをしていない人よりしている人の方が死亡率も低くなっています。

このように、口腔ケアの目的は口以外の部位における病気を予防するためでもあります。

 

脳の活性化

脳の活性化も、口腔ケアによって促されます。

食べ物をよく噛むと、学習や記憶、運動などと関わる脳の部分の血流が増加し、活性化されます。一方で、歯を失って噛み合わせが悪くなると、脳の活動が鈍ることもわかっています。

口腔ケアで自分の歯を健康に維持し、正しい噛み合わせで食べることが、脳の活性化につながるのです。

 

2.口腔ケアをしないことによって生じるデメリット

口腔ケアをしないことによって生じるデメリットは、口の中の問題にとどまりません。口腔ケアを怠って口の中に問題が生じると、身体の他の部位にも問題が起き始めます。

例えば、歯を失うこととの関係性に注目が集まっている病気のひとつが認知症です。神奈川歯科大学が発表した研究結果によれば、歯がほとんどない人は、20本以上歯が残っている人に比べ、認知症発症のリスクが1.9倍になるとされています。

 

歯を失うと認知症になりやすい理由は、歯を失う主な原因となる歯周病の炎症が直接脳に影響を及ぼすためや、歯を失うことにより咀嚼機能が低下し、脳の認知機能の低下を招くためと考えられています。

他にも、口腔ケアをしないことにより、感染症や内臓疾患のリスクが高まったり、健康寿命が短くなったりするデメリットがあります。健康な状態で1日でも長く生きるため、口腔ケアは欠かせないのです。

3.今日から始められる簡単な口腔ケア

口腔ケアの基本はこまめなブラッシングによる歯こう除去です。自分の歯のサイズに合わせた歯ブラシを用意し、歯を1本ずつ丁寧に磨きましょう。歯ブラシは使用後きれいに洗って乾燥させ、毛先が広がってきたら交換することが大切です。

歯ブラシが届きにくい部分の歯こうを除去するためには、日頃から歯間ブラシやデンタルフロスを使うのもおすすめです。

また、歯こうの付着やう蝕を予防するためには、フッ素入りの歯みがき剤やキシリトールのチューイングガムなどを日々のケアに取り入れるのも有効です。

4.まとめ

間違った口腔ケアをしてしまうと、逆効果になることもあります。特に、力任せのブラッシングやデンタルフロス使用によって口腔内を傷付けてしまうのは、よくある間違ったケアです。

正しい方法で効果的な口腔ケアを行うためには、定期的に歯科医院で検診や指導を受けると良いでしょう。

口腔ケアの目的は、むし歯や歯周病を防ぐだけでなく、自分の歯でおいしく食事をして、心身の健康を維持していくことにあります。

お口のトラブルは、日々の心がけで必ず防ぐことができます。歯科医院の協力を仰ぎながら正しいケア方法を身に付け、毎日実践するようにしましょう。

監修:森下 竜一 先生

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座 教授

医学博士。1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米スタンフォード大学客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。米国高血圧評議会Harry Goldbratt賞、日本医師会研究奨励賞、日本循環器学会佐藤賞、産官学連携推進功労者表彰産官学連携文部科学大臣賞、大学発ベンチャー2016表彰文部科学大臣賞などを受賞。

また知的財産戦略本部本部員、健康・医療戦略本部戦略参与、日本万博基本構想委員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。

日本血管認知症症学会理事長の他、日本抗加齢医学会、日本遺伝子治療学会などで副理事長を務める。著書に「アルツハイマーは脳の糖尿病だった」(共著)など。

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